PMA-1600NE開発者インタビュー
クラスを超えた新開発モデルとして発表された新しいプリメインアンプPMA-1600NE その開発コンセプトやカタログでは語り尽くせない魅力について、開発者にインタビューしました。
クラスを超えた新開発モデルとして発表された新しいプリメインアンプPMA-1600NE。デノン公式ブログではPMA-1600NEの設計・開発を担当し新井孝に、開発コンセプトやカタログでは語り尽くせない魅力などについてインタビューしました。
プリメインアンプ
150,000 円(税抜価格) 11 月上旬発売予定
詳しい製品情報はこちらをご覧ください。
CSBUデザインセンター マネージャー 新井 孝
■新井さんには以前にもPMA-SX1、PMA-SX11でも開発者としてお話をうかがいました。
今回もよろしくお願いします。このPMA-1600NEはSX1からはじまった新しいデノンのアンプシリーズの末弟、と考えていいのでしょうか。
新井:いや、むしろPMA-2500NEから始まった新しいシリーズと思っていただいたほうがいいと思います。
■SX1、SX11とは系統が違うということでしょうか。
新井:PMA-SX1、PMA-SX11の大きな特長は「徹底した回路のシンプル化」と「フォノイコライザーに力を入れた設計」が挙げられると思います。
特に回路規模が大きいMM/MC対応のCR型フォノイコライザーを搭載しているという点で、PMA-SX1、PMA-SX11はアナログレコードに思い入れのあるユーザー向けだといえるでしょう。
一方でPMA-2500NEとPMA-1600NEはいずれも本体内に最新のDACを搭載しており、ネットワークプレーヤーやストリーミングへの対応を強めているなど、現代的なリスニングスタイルに対応したモデルです。
こちらはより一般的なユーザーに広くお使いいただけるアンプの系列だと思います。
■ではPMA-1600NEには PMA-2500NEから踏襲されたものが多いのでしょうか。
新井:内蔵されたUSB-DACに関して言えば、 PMA-2500NEをそのまま継承しているといっていいでしょう。
一部コンデンサーなどを変えている部分はありますが、デバイス的にはまったく同じですし、音質のクオリティも同等です。
■ちなみにPMA- 2500N以降、デノンのプリメインアンプにUSB-DACを搭載するようになってきました。これにはなぜでしょうか。
新井:デノンはこれまでCDプレーヤーにDACを持たせてきました。
しかし昨今はリスニングスタイルが大きく変化し、たとえばヨーロッパなどではすでに7割以上の方がストリーミング配信で音楽を聴いているという話です。
そうなるとパソコンやネットワークプレーヤー、スマホなどが音源になりますから、CDプレーヤーは必要がなくなってしまいます。
それを考えるとUSB-DACはアンプに持たせるほうがいい、ということでPMA-2500NEからはUSB DACを搭載するようになりました。
■PMA-1600NEに戻りますが、基本的なアンプ構成などもPMA-2500NEから継承しているのでしょうか。
新井:いや、アンプの基本的な部分に関しては先代のPMA-1500REを踏襲しています。
実際に1500REは性能的に優れたモデルでした。
使っている部品も置き換えたいものがありませんでしたので、今回は今まで使ってきた部品をもっともっと使いこなしていきたいと思いました。
ベースとなる素子があらかじめ決まっていると、味付けでコンデンサーなどを使う場合の音の変化が読みやすいというメリットもあり、音作りが効率的に行えます。
■では部品的や基本設計は先代のPMA-1500REとあまり変わらないのでしょうか。
新井:回路構成や半導体素子は変えませんでしたが、音に色づけをするコンデンサーは変えていますし、回路面でも信号経路の短縮化を行って、より一層の音質の向上を図っています。これは具体的に言うと、今まで搭載されていたプリアウト機能の排除です。
プリアウトは主にサブウーハーを増設する際の信号の取りだしの経路として使うために設けられていましたが、実際のユースケースを見てみると、このクラスではほとんど使われていないということがわかりました。
それで思いきってこの機能をカットし、信号の引き回しやスイッチを減らして回路をよりシンプルにして音質を向上させています。
■最初の部分でPMA-1600NEは、PMA-SX1やPMA-SX11と系統が違うとうかがいましたが、音質的な方向性にも違いはあるのでしょうか。
新井:ベースとなる「デノンサウンド」、つまり中低域ががっちりした、ピラミッドのように安定したデノンサウンドという意味では、しっかり継承をしています。しかし、デノンのサウンドマネージャーが変わったこともあって、だんだん音が変化してきた点はあります。
■PMA-1600NEの音をあえて言葉で表現するとしたら、どんな音なのでしょうか。
新井:非常に「見通しのいい音」だと言えるでしょう。楽器の配置がハッキリみえる、あるいは空間感がよく表現されている。
たとえば目をつぶってPMA-1600NEで音楽を聴いていると、時々実際にホールに座っているような感覚がします。
■それは音がクリアだという意味でしょうか。
新井:そうですね。特に 音像面で言えば「前後感」がよく出るようになりました。
■ステレオの左右の定位の精度を高める、というのはPANなのでわかりますが、前後感の表現というのは技術的にはかなり難しいように思います。
どうやったら実現できるのでしょうか。
新井:音質をまとめる手段はいろいろあるのですが、ある部分では余計な音、叩いた時に鳴るような音、いわゆる「鳴き」を徹底的に抑えていく、つまり防振の精度を上げる、ということがあります。
ただし、ある部分についてはガチガチに制音せず、あえてそのままにしておく、というノウハウもあってそれらを組み合わせて音を追い込んでいきます。
またパーツ選定においても「原音を忠実に出すためになるべくクセのない音のパーツを集めて組み合わせる」というのが今までの方法だったのですが、今回はあえていろんな個性をもった部品を組み合わせることで、音を仕上げていきました。
■あえてクセのあるパーツを選ぶのですか。
新井:カレーと同じですね(笑)。いろんな香り、スパイスを組み合わせることで、音を作っていくのです。今回は音の味付けの面で新しいコンデンサーを使っていますが、これはサウンドマネージャーの「新しい味わいを加えていかないと、新しい音楽の音は再生していけない」という判断があったからです。
今回採用したコンデンサーも実は単品で聴くと全面的に「いい」とは感じられないかもしれませんが、組み合わせた時、アンプ全体の中では、いい働きをしているのです。
■PMA-1600NEの開発で苦労した点はどんなところだったのでしょうか。
新井:「より余裕のある電源回路を」ということで、PMA-1600NEは先代のPMA-1500REよりも大きなトランスを採用しました。
これはデジタル系の電気回路が増えたことで、より大きな電源が必要になったからですが、そのためトランス自体が大きくなってしまいました。
とはいえサイズはPMA-1500REと同じ大きさに抑えたかったので、大きくなった電源を前と同じサイズのシャーシに入れ込むためには組み込みの手順や工程上の問題をクリアしなくてはならず、この点では機構担当の設計者に苦労をかけました。
新井:また、PMA-1500RE にはなかったDACも、このサイズに入れ込まなくてはなりません。
DACが入るということは、デジタル回路とアナログ回路が混在することになりますが、デジタル回路からはどうしてもノイズが出てしまいますので、アナログ回路へのノイズの混入を避けるためにいろんな手段を使いました。
結果的にはノイズはほとんど抑えることができましたが、それも苦労した点です。
新井:またデジタル系のノイズを根本的に排除する方法として、DACを使っていない場合にはデジタル回路の電源を落とすことができるアナログモードを設けています。
デジタル系の電源を切ってしまえば純粋にアナログアンプとしても使えます。
いろんな系統のグランドがオフになりますので、これは明らかに効果があります。
DACを使用しない場合にはぜひ活用していただきたい機能です。
■最後に、兄弟アンプであるPMA-2500NEとPMA-1600NEを比較した場合、どんな音楽ならこちらが向いている、というような違いはありますか。
新井:PMA-2500NEとPMA-1600NEは完全な兄弟分ですが、ただ価格面では2500 が23万円、1600が16万円ということで、部品のコストや物量という部分ではPMA-2500NEが有利だと言えるでしょう。
ですから低域での安定感や中低域の押し出しを求める方なら、PMA-2500NEをオススメします。
逆に低音がガンガンほしいわけではなく、室内楽や、ボーカル中心の音楽がお好みの方であれば、空間感の表現が得意なPMA-1600NEの持ち味が堪能できると思います。
もうすぐ発売になりますので、ぜひオーディオショップなどで聴き比べていただ きたいと思います。
■ありがとうございました。
(Denon Official Blog 編集部 I)