開発者インタビュー トールボーイスピーカー SC-T37
ホームシアタースピーカー37シリーズのトールボーイスピーカーSC-T37はHi-Fiオーディオ用としても使用できるほどの高音質を実現。その設計コンセプトや独自技術について開発者にインタビューしました。
昨年10月に発売されたデノンのホームシアタースピーカーのミドルクラス 37シリーズ。
そのトールボーイスピーカー SC-T37 は Hi-Fi オーディオ用としても使用できるほどの高音質を実現しています。
SC-T37 の開発コンセプトやデノンの独自技術である P.P.D.D. 方式などについて、今回はデノンオフィシャルブログでは初となるスピーカーシステムの開発者インタビューをお送りします。
詳しい製品情報はこちらをご覧ください。
トールボーイスピーカー(1台売り)
SC-T37
42,500 円 (税抜)
グローバル プロダクト ディベロップメント ライフスタイルグループ シニアマネージャー
田村 邦彦
デノンのスピーカーは「ヨーロピアン・サウンド」
●今までデノンオフィシャルブログではデノンのスピーカーについて取り上げてきませんでした。
今回スピーカーシステムは初登場ということで、まずはデノンのスピーカーの特長について教えてください。
田村:デノンのスピーカーの音は、基本的にはフラットなサウンドで、けれん味がない、素直なサウンドです。
一時期は「ヨーロピアン・サウンド」と言っていたことがありました。
●ヨーロピアン・サウンドの対極は「アメリカン・サウンド」ということでしょうか。
アメリカン・サウンドと言うと高域と低域が強調されたドンシャリなイメージです。
田村:そうですね。デノンスピーカーの音はまさにドンシャリの対極で、フラットで上品なサウンドと言っていいのではないでしょうか。
ヨーロピアン・サウンドというのは単にイメージだけではなく、実際に先代のモデルなどではドイツの専門家にも参加してもらってスピーカーの最終的なサウンドチューニングを行っていました。
●そして今回のSC-T37の開発コンセプトについてお伺いします。これはホームシアター用のスピーカーと考えていいのでしょうか。
田村:はい。トールボーイ、センター、ブックシェルフ、サブウーハー、そしてドルビーアトモス・イネーブルドがラインナップしている「37シリーズ・17シリーズ」というホームシアター用のスピーカーシステムが昨年10月に発売されました。
その37シリーズのトールボーイスピーカーが「SC-T37」です。
※ 37シリーズ・17シリーズについてはこちらをご覧ください。
「37シリーズ プレスリリース」
田村:37シリーズの中でも SC-T37 はトールボーイスピーカーですので、主にフロントのL、Rで使われることが多いと思います。
ですから開発としても SC-T37 に関しては Hi-Fi オーディオ用のスピーカーとしても充分お使いいただけるような高品位な音質を実現しています。
●SC-T37 の開発コンセプトを教えてください。
田村:一言で言えば熟成、でしょうか。先代のモデルとして2010年に発売された SC-T33SG というモデルがあります。
今回は基本スペックや基本ユニットは先代のモデルとほぼ同じでしたので、今まで培ってきたノウハウを使い、改善すべき点は改善しながら、良い点をさらに磨き上げることができました。
今まで以上に最終的な音の作り込みに時間をかけることができました。
●まさに「熟成」ですね。
田村:そう言っていいと思います。
バランスの良さが光る、トールボーイ、2ウェイ、3スピーカー構成
●SC-T37 の構成について教えてください。
田村:スピーカーとしては3基搭載していますが、低域を再生するウーハーを2基、そして高音を再生するツイーターを1基搭載した2ウェイ、3スピーカー構成となっています。
●3ウェイではなく2ウェイなんですね。
田村:はい。スピーカーで低域を出すためには2つの条件があって、一つはスピーカーのハコの容積、つまり大きさが大きいこと、
そしてもう一つは、スピーカーの直径が大きいことです。ハコが大きくてスピーカーが大きければ低音は出ます。
●でもそれでは大きいスピーカーシステムになってしまいますよね。
田村:そうなんですよ。でも SC-T37 はホームシアター用のスピーカーですから、リビングで場所を取るような大きなサイズにするわけにはいきません。
そこでまず、トールボーイと言う背の高いスタイルにすることで、スピーカーボックスの容積を稼いでいます。
●なるほど。しかしスピーカーの直径は?
田村:はい。そこはハコの大きさが限られているので大きくできません。
それで10cmのウーハーを2基搭載することで、直径14cmウーハーと同等の表面積を確保しました。
●それによって省スペースなのに低域が出せるわけですね。
田村:はい。小さめのスピーカーを2基搭載しているのにはまだメリットがあって、大きいウーハーを積んでしまうとどうしても中音域が出にくくなるため、多くの場合中音域用のスピーカーを積んだ3ウェイ構成にするか、あるいは高音用のツイーターの口径を大きくして中域までカバーさせようと考えます。
しかし3ウェイにすると再生帯域をスピーカーごとに分割するためにクロスオーバー回路が複雑になりますし、ツイーターが大きくなるとハイレゾに対応するような高域は出しにくくなります。
●と言うことは SC-T37 のトールボーイ、2ウェイ3スピーカーはバランスがいいんですね。
田村:はい。トールボーイによる大容量、2ウェイのシンプルなクロスオーバー回路、2基のウーハーによる中低域再生と言うのは、とてもバランスがいいと思います。
●取材に先だって DRA-100+SC-T37 でハイレゾ音源を試聴しましたが、非常にバランスのいい Hi-Fi サウンドでした。
田村:ありがとうございます。
2基のウーハーを Push-Pull 駆動させるデノン独自の P.P.D.D.方式
●SC-T37 のツインウーハーには独自の技術があるそうですね。
田村:2基のウーハーには P.P.D.D.(Push-Pull Dual Driver)方式というデノン独自の技術が使われています。
●どういう技術なのでしょうか。
田村:この2つのスピーカーですが、よくみると上と下とで振動板のエッジの部分が違うのです。
プッシュプルといって、実際には同じエッジなのですが、片方のエッジが表向き、もう片方のエッジが裏向きになっています。
スピーカーは前後に振動して音を出しますが、エッジの形状によって前と後の揺れ方が厳密に言えば同じではないので、そこに歪みが発生します。
そこでダブルウーハーモデルではエッジの凹のものと凸のものを同時に両方鳴らせば、歪みを打ち消し合ってキャンセルできる、という原理です。
●それって、ホットとコールドで伝送して最後に信号合成することで外来ノイズを打ち消すというバランス接続と似ていますか?
田村:うーん(笑)。やっていることは全然違いますが、ニュアンスとしては似ています……。
●ツイーターにも工夫があるのでしょうか。
田村:これは2cmソフトドームツイーターですが、写真では写らないぐらい小さい穴が空いています。これは空気穴です。
このツイーターは非常に艶やかに高域の音を再生できるのですが、性能を上げるために磁気回路に磁性流体という液体を使っています。
そのためツイーターが密閉構造になっているのですが、空気がバネになってツイーターの振動を妨げてしまうため、空気が逃げるようにベンチレーション用の穴が空けられています。
これも高域の歪みを取る働きをしています。
●デノンはスピーカーでも結構すごい技術を持っているのですね。
田村:P.P.D.D. は1998年のスピーカーシステム SC-E727R で採用された技術です。
最近こそデノンといえばアンプやプレーヤーが有名ですが、デノンにも多くのスピーカーの技術があり、そして銘機があるんですよ。
※ デノンのスピーカーの銘機の系譜はデノンミュージアムをご覧ください。
丹念に磨き上げられたピアノフィニッシュと美しい木目仕上げ
●実機を見て、ピアノフィニッシュと木目仕上げの、それぞれの仕上げの美しさにも驚きました。
田村:ピアノブラックは本当に楽器の仕上げと同じように手間のかかる塗装で、なんども塗っては磨き、塗っては磨きと、塗装と研磨を繰り返して美しいピアノフィニッシュに仕上げています。
そのメリットは丹念に磨き上げられた美しさだけでなく、塗装を繰り返すことでずばぬけた硬度を持った塗膜となるため、音の伝幡速度が早いという物理特性も併せ持っています。
このピアノフィニッシュを発表したのは、国内メーカーではたぶんデノンが初めてだったと記憶しています。
田村:もう一方の木目については、天然木の突き板を使っているので、高級感があります。
木材の色についても、プロダクトデザイナーがこだわり抜いており、先代の SC-T33SG よりも深くて落ちついた色になっています。
どちらもリビングに置いておきたくなるような美しい仕上がりではないでしょうか。
データで追い込む部分の先にある、理屈を超えた部分が面白い
●田村さんはずっとスピーカーを開発されてきたのでしょうか。
田村:私は22歳で入社して以来、設計だったり商品企画だったりはしましたが、ずっとスピーカーにかかわってきました。
ミニコン、ヘッドホン、業務用機器も手がけていますが、スピーカーから完全に離れたことはないですね。
●スピーカー作りの醍醐味はどんなところにありますか。
田村:音作りにおいて、データと理屈で追い込む部分があるのですが、その先に理屈を超えた部分があって、これが苦しくもあり楽しくもある部分なんです。
それが醍醐味といってもいいかもしれません。
●理屈を超えた部分と言うと?
田村:例えばスピーカーの中には吸音材を入れるのですが、量を変えずに、吸音材を入れる場所をちょっと横に動かすんですね。
そうすると音が変わります。こんなものは機械で周波数特性を測定してもまったく違いは出てきません。
でも聴いた感じは変わるわけです。設計をしているとだんだん「これをこう動かすとこうなる」というイメージは持てるようになりますが、これは言葉では説明しづらい部分ですね(笑)。
●スピーカーに関して今後やってみたい夢などはありますか。
田村:でっかいスピーカーをやってみたいですね。昔ジャズ喫茶に大きなスピーカーがあったじゃないですか。
ウーハーの口径が38cmとか45cmとか。ああいう大きさなら、小細工をせずにどーんと腹に響くような低音が出せますから。
ただ、正直言って、そういうスピーカーにお客さまが価値を見いだしてくれる時代には戻らないとは思っています。
●今はどんな製品にかかわっていますか?
田村:こうしたシアター用のスピーカーだけでなく、Bluetooth スピーカーである Envaya や、今後発売される新コンセプトのスピーカーにもかかわっています。
●新コンセプトのスピーカーが発表されたら、ぜひまたお話を聞かせてください。
田村:もうすぐですね(笑)。よろしくお願いします。
(Denon Official Blog 編集部 I)