2017年デザインシリーズ PMA-60、PMA-30 デザイナーインタビュー
デノンの伝統のHi-Fiサウンドをコンパクトに凝縮したデザインシリーズからプリメインアンプのPMA-60とPMA-30が登場。今回はデザインの視点からインダストリアルデザイナーがPMA-60、PMA-30を語ります。
デノンの伝統のHi-Fiサウンドをコンパクトな筐体に凝縮したデザインシリーズからプリメインアンプのPMA-60とPMA-30が登場します。
今回のデノンオフィシャルブログではデザインの視点からPMA-60とPMA-30、そしてデザインシリーズについてインダストリアルデザイナーが語ります。
USB-DAC搭載プリメインアンプ
PMA-60
プリメインアンプ
PMA-30
2017年9月下旬発売予定
D&Mホールディングス
インダストリアルデザイナー
山後 光広
●まず、デザインシリーズのシリーズとしてのコンセプトについておしえてください。
山後: デザインシリーズとは、デノンの伝統のHi-Fiサウンドを音質に妥協することなくコンパクトに凝縮し、それを従来のフルサイズコンポよりもお手頃な価格で提供する、ということが製品コンセプトになります。
●デザイン面ではどんな点がコンセプトでしょうか。
山後:なるべく多くの方にHi-Fiの音を聴いてほしいという製品ですから、いわゆる伝統的なHi-Fiのフルサイズコンポとは違うものであり、かつ誰が見ても「デノンのオーディオだ」と一目でわかるデザインにしたいと思いました。
●デザインシリーズはどれも今までのHi-Fiフルサイズコンポとはデザインの方向性がかなり違いますが、どんな工夫をすることで「デノンのオーディオだ」と一目でわかるデザインになるのでしょうか。
山後:たとえばプリメインアンプのPMA-60、PMA-30でいえば「しっかりとしたボリュームノブを持つ」ということです。
プリメインアンプで最も本質的な機能は「増幅」ですし、デノンのプリメインアンプはボリュームノブが中央にあるデザインが特徴です。
ボリュームノブをデザイン上のアイコンとして使うことで、デノンのオーディオであることをアピールしつつも、他の部分は大胆に変えることで通常のフルサイズコンポとは違うコンセプトの製品であることを示すことができます。
●それにしてもPMA-60、PMA-30は構成要素を徹底的に絞ったミニマルなデザインですね。
山後:はい。デザインの方向性としては2015年に発売したPMA-50から変わっていません。
デザイン的な要素もパーツの数もギリギリまで減らしていますし、サイズも機構的に可能な限り小さくしました。
フルサイズのHi-Fiコンポの場合は横幅のサイズが434mmと決まっていて、グレードが高くなると高さが出てくる、というデザインになっています、「物量感」を重視しているからなのですが、このデザインシリーズは現代的なインテリアにマッチするように徹底的にミニマルを志向しています。
こういう方向性は従来のHi-Fiのデザインにはない手法だと思います。
●もうひとつ従来のフルサイズコンポとは異なる点に「縦置き可能」という点もあると思います。
山後:そのとおりです。デザインシリーズは、いつでもどこでも気軽にお客さまのライフスタイルにあったカタチで、デノンのHi-Fiサウンドを楽しんでほしい、という新しいリスニングスタイルを提案する製品です。
置き場所は、机の上でもいいですし、パソコンの横でもいい、本棚でも、リビングでもいい。
どこにでも自由に置いていただけるように、サイズを可能な限り小型化すると同時に、縦置き/横置きいずれも可能な機構、そしてデザインに仕上げました。
●縦でも横でも成立するデザインというのはオーディオではあまり例がないと思いますが、デザインする立場としては大変ではないですか。
山後:六面デザインというんですかね。後ろから見ても綺麗で破綻しないデザイン。
横からみても綺麗だという縦横どちらでもいいバランスになるようにするのはなかなか大変でした。縦の時と横の時ではフット(足)を付け替えるのですが、空いた方の穴にはそれを埋めるようにしています。
↑横置き時の使用するフット用の穴。縦置き時には専用のパーツで塞がれる。
●ミニマルなデザインで要素が少ないので、どうしてもディテールに目がいってしまいますね。
山後:そうなんです。ミニマルなデザインなので、そういうところをキチっとやらないと品質感やデザインの精度が上がりません。
ですから、組み上げる時の隙間も機構設計のエンジニアにお願いして、できるだけ隙間や段差がないようにしてもらいました。
また製品の外面になるべくビスを出さないよう工夫していて、外から見えるビスは後ろの4ヵ所だけにしています。
アルミは歪みが出ますのでそれを矯正しながらきちっとした精度を出すのにも技術が必要なので、けっこう大変です。
↑PMA-60のリアパネル面。PMA-60、PMA-30で製品で外側からビスが見えるのは左右のこの部分だけ。
●PMA-60、PMA-30はボディの色が黒とシルバーのツートンカラーである点も特徴的だと思います。この点はどんなコンセプトなのでしょうか。
山後:パネルが「黒」であることには理由があって、電源を入れた時に表示される本体のディスプレイ表示窓を、電源オフ時には消してしまいたい、表示窓の存在そのものを見えなくしてしまいたかった。
それで本体正面はブラックパネルになっています。
↑電源オフの時のフロントパネル。ディスプレイ表示窓の存在を感じさせない
↑電源オン時にはこのように本体正面に入力や音量などが表示される。なお重力センサーにより縦置き/横置きを感知し、表示が自動的に縦/横に切り替わる
●ブラックフェースにシルバーというコントラストは、控えめながらも存在感があっていいですね。
山後:ブラックとシルバーの2トーンがデザインシリーズのアイデンティティになっている部分はあります。
アルミパネルのシルバーですが、我々はこの色を「プレミアムシルバー」と呼んでおり、ややゴールド感のあるシルバーになっています。
実はこれ、デノンのHi-Fiコンポで使っているパネルの色なんです。ちょっとしたところにさりげなくデノンのHi-Fiの遺伝子が受け継がれています。
ちなみにこのアルミパネルは質感の高い 3mm厚の無垢のアルミニウム材で、表面には細かめのサンドブラスト加工が施されています。
このパネルは質感、デザイン性が高いだけではなく、本体の剛性を向上させており、振動による音質への影響を抑えるなど高音質化にも大きく寄与しています。
↑ややゴールド感のある「プレミアムシルバー」のアルミニウムパネル
●先代のPMA-50も「パソコンといっしょにデスクトップで使いたい」という方に人気が高かったモデルですが、パソコンとも相性がいいカラーリングですね。
山後:もちろんそこも意識していて、パソコンもたいていシルバーか黒ですから、マッチングはいいと思います。
とはいえ最終的にPMA-50と同じパネルになりましたが、実はパネルの色は今回いろいろ検討したんですよ(笑)。
●そうなんですか! どんな色があったんですか。
山後:たとえばこんな黒いパネルのモックも作ってみました。
●これはこれでカッコいいですね!
山後:はい(笑)。ただ今回のタイミングではまだ黒ではないと。
●ちなみに今回PMA-50からPMA-60へと進化するにあたってデザイン的に変わった点はあるのでしょうか。
山後: PMA-60のテーマは基本的には「PMA-50からのコンセプトを受け継ぐこと」でしたので、どこを変えるか、どこを変えないかを決めるのが実は一番大変でした。
今申し上げたようにパネルの色を変えるという大幅な変更も検討しましたが、最終的にはボリュームノブとその周りのエスカッションを変えた、というのが一番大きな変更でした。
↑ボリュームノブも複数の案が試された。手前が最終的にPMA-60で採用されたもの、奥右はPMA-30のもの。
●ボリュームノブは具体的にはどう変わったのでしょうか。
山後:上の写真のように、アルミの黒いボリュームノブで角をダイヤモンドカットで面取りしています。
これによってシルバーのラインが出て高級感が出せました。
●「ダイヤモンドカット」とはどんなものですか。
山後:今回のようにアルミの角を落とす際にダイヤ刃を使うことを「ダイヤモンドカット」と言います。
ダイヤ刃で落とすと角が非常に綺麗に落ちるので、仕上がりが美しく表面が滑らかに仕上がり、高級感を出すことができます。
ダイヤモンドカットはボリュームノブの後ろのエスカッションにも施しているので、PMA-60のボリューム周りにはシルバーの円が二重に出ています。
ちなみにエスカッションも様々なものを検討しました。
下の写真は、全体がシルバーのものです。このように試行錯誤を重ねました。
●今回弟機としてPMA-30が登場しますが、デザイン面でPMA-60とはどう違うのですか。
山後:PMA-60ではダイヤモンドカットのアルミのボリュームノブがPMA-30では樹脂製になっています。
ただし兄弟モデルとしてデザイン的な統一感を持たせるため、PMA-30のノブの角はPMA-60と同じく角を落としてあります。
PMA-30のエスカッションはシルバーなので、これはむしろ先代のPMA-50に近い印象かもしれません。
●PMA-60、PMA-30のプロダクトデザインにおいて、一番苦労した点はどんなところでしょうか。
山後:今回はPMA-50という大好評のモデルがあり、そのコンセプトを受け継ぎながら、新しさを出したいということで、どこを変えてどこを残すのかという点。
それとPMA-60とPMA-30と2つの兄弟モデルをどう差別化するのか。そのあたりで結構考えました。
先ほどお出しした黒い天板などに関しても、デザインとしてはいいけれど、PMA-50からの変化量が大きすぎる、ということで今回は見送りました。
そのあたりのさじ加減が難しかったですね。
●山後さんがオーディオのデザインをする上で、大事にしていることはありますか?
山後:オーディオのデザインをするためには、むしろオーディオ以外の製品をよく見ていないとダメかもしれません。
たとえば家具だったり、クルマだったり。特にクルマの内装などはプロダクトデザインの勉強として結構大事だなと思います。
あとはスマホやデジタルカメラなどのデジタル機器も大事ですね。
iPhoneなど、かなり良くできているなぁと思います。
●こうやって話を伺うと、オーディオのデザインってオーディオを見ているだけではダメなんでしょうね。今日はありがとうございました。
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(Denon Official Blog 編集部I)