アナログレコードプレーヤーの愉しみ方(中級編)
秋が来ると、なんとなくレコードを聴きたくなりませんか?MP3やハイレゾなど、デジタル音源で音楽を聴く機会が増えている一方で、LPレコードやレコードプレーヤーの人気が高まっています。今回はアナログならではの楽しみ方やノウハウをご紹介します。
秋が来ると、なんとなくレコードを聴きたくなりませんか?MP3やハイレゾなど、デジタル音源で音楽を聴く機会が増えている一方で、最近またLPレコードやレコードプレーヤーの人気が高まっています。
今回はアナログならではの楽しみ方や、よりいい音でレコードを再生するノウハウをご紹介します。
DP-1300MKII
天然木仕上げキャビネットのレコードプレーヤー
希望小売価格:200,000 円(税抜)
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●近年ますます人気が高まっているレコードプレーヤーですが、レコードプレーヤーを初めて買う方や、買ってはみたが使い方がよくわからない、という人が多いようです。
そこで今回はデノン社員でレコードプレーヤーをこよなく愛する平野さんに、レコードプレーヤーを楽しむコツなどをうかがいたいと思います。平野さん、よろしくお願いします。
ジャパンセールス&オペレーションシニアマネージャー 平野一夫
平野:私はオーディオをはじめて、もう45年。中学校の頃からやっているんです。
●きっかけは何でしたか。
平野:中学校の入学祝いでセットオーディオを買ってもらって、そこからです。当時はアイドルでいうと天地真理とか南沙織の時代ですよね。
中学で初めて買ってもらって、そこからすぐコンポに行きました。アンプはこれ、スピーカーはこれ、と買い集めて。高校に入ってからはジャズが好きになってハードバップなどを聴くようになりました。
●途中でCDの時代に変わるかと思うのですが、レコードプレーヤーはそのまま持っていたんですね。
平野:はい。アナログレコードには、アナログレコードの良さがありますから。
●最近はまたレコードが復活して人気を集めていますが、CDの音とレコードの音ではどんな点がちがうのでしょうか。
平野:最初にCDが出てきたときには、アナログレコードのプチプチノイズがまったくありませんでしたから、とても驚きました。
あの雑音からの開放は大きかったです。ただCDの音ってクリアで素晴らしいんですが、音の印象はカッチリしている、ある意味四角四面の音だと思うんです。
アナログレコードはその点倍音が響いているように思います。
●アナログレコードには倍音があるんですね。
平野:はい。その倍音が音楽を聴くときに五感をくすぐる要素を持っていると思うんですね。
それと、いじる面白みでいうとCDプレーヤーは買ってきた時点でほぼ音は決まっていて、あとはケーブルぐらいしかいじれる点がないんです。
その点レコードプレーヤーはいろんな部分を変えることで、再生音を自分の好みに変えることができる、ここがオーディオファンとしては非常に面白いところなんです。
■まず極性を揃える、それと静電気に注意すること
●具体的にはどんな点をいじることができるのでしょうか。
平野:これが実にたくさんあるんですよ(笑)。
ですから順番にご説明しましょう。まずはお金がかからないことからですが、アナログ/デジタルに限らず電源の極性を合わせることが大切です。
電源プラグの向きの問題です。極性のプラスとマイナスをあわせるだけで音は全然変わります。
これはプレーヤーだけでなくアンプも同じです。本来は極性チェッカーという道具があるのでそれを使えばすぐに分かりますが、無くても大丈夫です。
プラグの向きを変えてよく音を聴いてみてください。音が変わるはずです。その時に音が良い方を選んでください。
●わかりました。次はなんでしょう?
平野:レコードのパチパチノイズってホコリだと思っている方が多いのですが、実は静電気なんですね。
ですから静電気をある程度とってやるといい音で聴くことができます。
静電気を除去するには専用の装置があり、それなりの値段がしますが、レコードのホコリをとるブラシがありますよね、あのブラシに静電気除去の機能を持ったものがありますから、そういうものを使ってもいいかもしれません。
↑audioquest Record CLEANER(静電気除去プレート付き)
↑このプレート部分に静電気除去機能がある
↑静電気を除去するためにはレコードを回して1、2周程度ブラシをかける。やりすぎると静電気が発生するので気をつけること
●ちなみに静電気を除去すると音は変わりますか。
平野:すごく変わります。最近私は静電気除去用の装置を入手したんですが、ちょっと目から鱗が落ちました。
たとえばジャズのライブ盤で狭いライブハウスで録音したレコードがありますよね。
いままでそのライブの拍手はかたまりで聞こえていたんですが、静電気を除去すると、拍手が鳴っている場所がバラバラなのがわかりますし、演奏していてもベーシストが足で拍をと取っている音まで聞こえます。
●それはすごいですね。
平野:ただしそれは静電気除去用の専用の装置を使った時の感想です。
■シェルリード、ケーブル、マットを交換してみる
●さて次は何でしょうか。
平野: 今までのノウハウはわりとコストがあまりかからない方法でしたが、今度は少しコストや手間がかかります。
●たとえばどんなものですか。
平野:カートリッジが拾ったレコードからの信号をトーンアームに伝えるケーブルがあります。
これをシェルリードといいます。
上の写真の白、青、赤、緑の線が見えると思いますが、これがシェルリードです。
これってただ差してあるだけの短いケーブルなんですが、このケーブルで大きく音が変わるんです。
●ほんとですか?
平野:レコード針が拾ったばかりの信号はオーディオの中でも最も微細な信号なので、ここの線の質を良くすると大きく音が変わります。
シェルリードは専門メーカーが作っている製品もありますし、はんだ付けができる人なら自分でケーブルを買ってきて作ることもできます。
それこそ短いケーブルですから少ない投資で音を変えることができます。実際、ビックリするぐらい音が変わるんですよ。
●どんなケーブルを使うのですか。
平野:たとえば銀製、それにOFC(Oxygen-Free Copper)などがあります。OFCは、いわゆる無酸素銅です。
●素材によってどんな特徴があるのですか。
平野:これが一概には言えないんですよ(笑)。カートリッジとの相性があるので。そこが難しいところであり面白いところなんですが……。
●たとえばデノンのMCカートリッジの銘機DL-103のシェルリードを銀に変えるとどうなりますか。
平野:もともとDL−103はそのものズバリの音、原音という感じで再生がフラットで再生帯域が広いんですが、シェルリードを銀線に変えてやるとさらに見通しがよくなります。
いわゆるモヤっとした感じがなくなって音がさらにクリアになります。それでいてアナログ感を失いません。
このあたり実際に聴いてもらわないとわからないところなんですが。だから私たちもいろいろやってしまうんですけどね。
●平野さんは自分でシェルリードをつけかえるのですか。
平野:することもあります。
●かなり細かい作業ですよね。
平野:ま、苦行だよね(笑)。でも出てくる音が楽しみだからやるんですよ。でも慣れればそれほど大変ではありません。
リードは線だけ買ってくれば安いし1時間もあれば何組も量産できちゃいます。
●他にはどんなものがありますか。
平野:レコードプレーヤーからアンプに信号を送り出すケーブルを変えると音が変わります。
平野:写真の右が付属のケーブルで、左のケーブルが交換用のケーブルです。
ケーブルもピンからキリまであって、写真の左のものは1万円前後ですが、これを変えても大きく音が変わりますね。
この時点でも信号はまだ微細ですからシェルリードと同じように音に大きな影響があります。それとターンテーブルのマットでも音が変わります。
これもすぐわかりますよ。ゴムのものもあれば、フェルトのもの、レザーのものもあります。
一概には言えませんが、個人的な印象としては、ゴムのものよりコルクやレザーのほうが尖った部分がなくなり、音がまろやかになるように感じます。
■好みに合わせてカートリッジを変えてみる
●次はどんなものでしょうか。
平野:最後は王道ですが、やはりカートリッジでしょうね。
デノンのレコードプレーヤーDP-1300MKIIもそうですが、レコードプレーヤーの高級機にはもともとカートリッジが付属していないことが多いので、自分でカートリッジを選ぶ必要があります。
たとえばCDプレーヤーを買っても読み取り部分が別売ってことはありませんよね。でもレコードプレーヤーは面白いことに、もともとカートリッジは自分の好みのものを付けるのがあたりまえでした。
●どんなカードリッジを選んだらよいのかのアドバイスとしてデノンのMCカートリッジについて特徴を教えていただけますか。
平野:DL-103は、デノンのカートリッジの定番中の定番で、NHKをはじめ多くの放送局で使われてきました。
主な特徴としてはフラットな音色でダイナミックレンジが広いこと。DL-103はある意味で標準的なモデルといえると思います。
MC型カートリッジ
DL-103
希望小売価格:35,000 円(税抜)
平野:DL-103RはDL-103と同じ構造ですが、発電コイルに6N高純度銅線を採用しています。
それによってDL-103よりも音の分解能が高くなります。
よくテレビの画像も4Kとか8Kとか画素数が増えると細かいところまで見えるようになりますよね。そういうイメージです。
MC型カートリッジ
DL-103R
希望小売価格:42,000 円(税抜)
平野:一方DL-301IIは若々しくて溌剌とした音がするカートリッジです。
たとえばデジタル録音された音源をアナログレコードにしたものがありますよね。
そういう音源をDL-301IIで聴くととてもシャープなサウンドがします。
切れ込みが優れている、という感じがして、新しい録音方式にはあっていると思います。
MC型カートリッジ
DL-301II
希望小売価格: 38,000円(税抜)
●ちなみにカートリッジにはそれぞれ適正な針圧がありますよね。
平野:そのとおりです。カートリッジに推奨針圧が書いてありますから、そのとおりにレコードプレーヤーで針圧を設定してください。
↑DP-1300MKIIのアーム部分。写真右端のバランサーを回して針圧を調節する。
平野:針圧は推奨どおりが基本ですが、針圧を高めにすると溝に刻まれた音をしっかりつかまえる印象があり、針圧が低いと音も軽くなるような印象があります。
また、私の場合は部屋の温度によっても微調整をします。部屋が寒い時には針圧を高めにしています。
●微妙な針圧の設定をされるのですね。
平野:そうなんです、ですから私の場合は自作の針圧計を使っています。あとアンチスケーティング。
レコード針は常に中心に引っ張られるので、その力をキャンセルして正しく溝をトレースする機能ですが、これは針圧と同じメモリにするのが基本です。
↑平野さん自作の針圧計
●本当にいろんなノウハウがあるのですね。
平野:いや、もっといろいろあるのですが、今回はこのくらいにしておきましょうか。
●お時間いただき、ありがとうございました。また次回、よろしくお願いします。
(Denon Official Blog 編集部I)