サウンドマネージャー山内セレクションVol.7
デノンサウンドマネージャー山内がHi-Fiシステムのいい音で味わってほしい音楽をセレクトする「山内セレクション」のVol.7。今回はコンパクトなプリメインアンプ「PMA-30」の恐るべき実力がわかる音源をご紹介します。
今回は昨年発売されたコンパクトなプリメインアンプ「PMA-30」を使っての試聴となりました。
恐るべき実力がわかる音源をご紹介します。
Hi-Fiのエントリーモデルにあたるお求めやすいプリメインアンプですが、試聴室で聴いたサウンドは衝撃的なクオリティでした。
GPD エンジニアリング デノンサウンドマネージャー 山内慎一
プリメインアンプ
PMA-30
希望小売価格:50,000 円(税抜)
PMA-30の詳細はこちらをご覧ください。
デノン「デザインシリーズ」のスペシャルサイトもぜひご覧ください。
●山内セレクション、今回は7回目となりました。よろしくお願いします。
山内: よろしくお願いします。今回はちょっと趣向を変えて、プリメインアンプをPMA-30にして聴いてみようと思います。
●今回はどうしてPMA-30をフィーチャーするのですか。
山内:兄弟機にあたるPMA-60は増幅回路に採用されたデジタルアンプソリューション新世代「DDFA™」が大きな話題を呼びました。
対してPMA-30はUSB-DACの搭載はなく機能はシンプルですが、Hi-Fiプリメインアンプの中でもベーシックなパフォーマンスモデルです。
これからHi-Fを始めたいと考える方に改めておすすめしたいと考えたからです。今回は実際に音源を聴きながらPMA-30の良さについてお話できればと思いました。
●PMA-30の魅力はどんなところにあるのでしょうか。
山内:PMA-30はミニコンとは一線を画したれっきとしたHi-Fiプリメインアンプで、実際、サウンドもPMA-2500NEやPMA-1600NEと同じベクトルを持った音作りをしています。
伝統のデノンサウンドはもちろん、特に最近提唱している「ビビッド」「スペーシャス」というサウンドのコンセプトもしっかりと反映されています。
↑試聴室に置かれたPMA-30
●PMA-30はUSB-DACを持っていないのでPMA-60よりもシンプルですよね。
山内:機能を抑えた分だけシンプルなので、設計も無理がなく、音作りに時間がかけられました。
オーディオはシンプルなほうが音は素直で、付帯音も少なくなるというおおよその傾向があります。
それとPMA-60、PMA-30はいずれもPMA-50からの第2世代となりますが、このサイズでいい音を出すためのノウハウがたまっていましたし、デバイスやシャーシなど同じものを使っています。
そのあたりも高音質が実現できた要因だと思います。
●今日はPMA-30でいつもの凄いスピーカーをならすのでしょうか。
山内:はい。B&W 802 D3という180万円/1本(税抜)のスピーカーを鳴らします。
●価格が2ケタぐらい違いますね(笑)
山内:そうですね。実際の組み合わせとしては、ちょっとあり得ないのかもしれません(笑)
でも私たちが製品の音決めをする時、モデルがなんであれこのシステムで鳴らしています。
このスピーカーで聴くとその製品のポテンシャルから限界点までがよく見えるのです。
それに今回はコンパクトなエントリーモデルのPMA-30が、実際はB&W 802のような大型のスピーカーを充分鳴らせることも、読者の方に伝えたいと思いました。
↑試聴で使用したスピーカー「B&W 802 D3」
↑デノン試聴室でのPMA-30の試聴全景。小さくて見えにくいが手前中央右側がPMA-30。左隣はCDプレーヤーのDCD-50。
●では試聴、よろしくお願いします。
山内:最初はドミニク・ミラーのアルバム「Fourth wall」から「Iguazu」を聴いてみてください。
このアルバムは設計段階での音質評価でも使いますし、試聴会でもよく使っているソフトです。
アーティスト名:ドミニク・ミラー
アルバム・タイトル:Fourth wall
●(試聴が終わって)ギターの弦の感じがすごいリアルですね。それと凄く低い音域の音も入っているんですね。よく再生されていると思いました。
山内:このアルバムのポイントは「トランジェント」の良さがよく見えることです。
トランジェントとは余分な音が付加されず、なまったりせずに、瞬間的な音をすばやく追従し、再生できるかということです。
このアルバムにもギターなどの弦楽器がたくさん入っていますが、その音を倍音も含めどのくらいしっかり再生できるかが聴き所でした。
その点、PMA-30はよく再生していると思います。それとこのアルバムにはのぞき込むような深さの低音がありますが、それもPMA-30はしっかり出せていました。
●こんなに大きなスピーカーもしっかり駆動して、瞬発力のある音や低音もしっかり再生する、PMA-30の凄さにちょっと驚いています。
山内:ドミニク・ミラーは音楽性も素晴らしいと感じています。
スティングバンドのギタリストとしても活躍していて、スティングがあるアルバムのライナーノーツに「彼の音楽を聴いていると、倍音列は無限なのか?それが可聴帯域を越えるとやがて光になるのだろうか?ということを考える。
答えはわからないけどこういうあいまいな領域でこそアーティスティックなメタファーが生まれ、彼は色彩感やエモーションのスペクトラムといったところまで表現することができる」という趣旨のことを書かれていますが、なるほどと思いました。
それと南米のミュージシャンらしい音の広がり、大地や自然の広がり感を感じます。
●こんなに大きなスピーカーもしっかり駆動して、瞬発力のある音も低音もしっかり再生して、PMA-30の凄さにちょっと驚いています。では次をお願いします。
山内:イーファ・オドノバンというアイリッシュ系アメリカンの方のアルバムです。
ジャンル的にはフォーク、ブルーグラス、カントリーなども含めた新世代のアメリカンミュージックといった感じです。
このCDは2枚組になっている輸入盤があって、2枚目のほうがアコースティックギターを使ったアンプラグドになっています。そこから1曲目の「IN THE MAGIC HOUR」を聴いてください。
アーティスト名:イーファアオアイフ・オドノバン
アルバム・タイトル:in the magic hour
●(試聴が終わって)歌声が前面にスコーンと来て、聴いていて気持ちが良かったです。
山内: PMA-60が繊細で緻密な再現が得意なのだとすると、PMA-30はストレートで、いい意味でラフな魅力があります。シンプルな歌ものなどには特に向いているのかもしれません。
●PMA-30はその価格から考えると相当クオリティが高いですね。では次をお願いします。
山内:イギリスのサム・シェパードという人の1人ユニットであるFloating Pointsを聴きましょう。
彼は神経分野の博士号もとっているそうなので、わたしはFloating Pointsの音楽をニューロトロニカと名付けてしまいました(笑)。
聴いてみると神経組織とかミクロな世界の有機的な精密感を連想してしまいます。
彼の音楽は広い意味でエレクトロニカル・ミュージックをベースとした音楽ですが、そこにジャズなどオーソドックスな音楽やアンビエント的な部分も持っていると感じています。
アーティスト名: FLOATING POINTS
アルバム・タイトル:ELAENIA
●(試聴が終わって)とても面白いですね。エレクトロとアンビエント、そしてジャズの要素がミックスされている面白さを私も感じました。
山内:そうなんですよ、基本はエレクトロニカですが、過去の音楽的な資産を広くカバーしているようなところがあって、若いのに老成している、とでもいいましょうか……。
この人も天才の一種ではないでしょうか。この人の音楽に対して「レイハラカミとマイルス・デイヴィスがセッションしているみたいだ」というコメントがあって、それはなかなか言えているなぁと。
聴いているとついその世界に引き込まれていく浸透力があり、オーディオ的にも聴き所が多いので、こういったタイプの音源をあまり聴かない方でも、楽しんでもらえると思います。
●ありがとうございます。今日はたくさん音源を用意していただいているので、どんどん行きましょう.次はなんでしょうか。
山内:ボーカルものをいってみましょう。マリア・ロペスという人です。
ブラジルのボーカリストで、カエターノ・ベローゾも賞賛しているんですが、声の素晴らしさはパーフェクトだと思います。2曲目の軽快なナンバーを聴いてもらいましょう。
●(試聴が終わって)素晴らしい声ですね。ジェイムス・テイラーの「Don’t Let Me Be Lonely Tonight」やジャズスタンダードの「Everytime We Say Goodbye」も入っているんですね。
山内:この方はジャズ的なバックグラウンドを持っているようです。
シンガーとしての佇まいを含め、声、歌い方、表現力、いずれもパーフェクトに近いのではないでしょうか。
ただ完璧なものは、面白くなくなりがちですが、マルシア・ロペスは完璧なのに、つまらなくない。それがいいと思います。
●このアルバムでも、ボーカルが前に出てきて、とても良いと感じました。次のアルバムをお願いします。
山内:次はZERO 7を聴きましょう。ZERO 7はサム・ハーデイカーとヘンリー・ビンズの2人によるイギリスのプロデュース・ユニットです。
彼らの音はいわゆる「メインストリームとアンダーグラウンドの双方から同時に評価される数少ない音」と評価されているのですがまさにその通りと思います。
ダウンテンポと紹介されることが多いですが、音楽的なバックグラウンドとしてソウルやフォークなど多彩に感じさせます。
このアルバムはナイジェル・ゴッドリッチが参加しているようですが、オーディオ的にも聴きごたえがあるのでご紹介します。
曲は「the garden」からビートの効いた「throw it away」 です。そしてもう1曲1st アルバム 「Simple Things」 から「Destiny」も聴いてみましょう。
アーティスト名:Zero7
アルバム・タイトル:the garden
アーティスト名:Zero7
アルバム・タイトル:Simple Things
●(試聴が終わって)UKソウル的なサウンドですね。低音のグルーヴが気持ちよく再生されていました。
山内:Zero 7はエレクトロニクスというか効果音の使い方が面白いです。
屈託がない効果音というか。また、曲調が全体的にどことなく映像や映画のカットを感じさせるような情緒感があるところが素晴らしいですね。
時々フィーチャーされる女性ボーカリストでシア・ファーラーやソフィー・ベーカーという方がいて、その人たちの声も好きですね。
張りのある声と片や憂いを帯びた声という。「Destiny」は彼らの代表曲ですが、音的には厳しい面もあって録音が必ずしも良いとは言えないです。
ただ、かえってシステムのハーシュネス(音質における、とげとげしさや荒さ)などを教えてくれることがあります。
もちろん気持ち良くスムーズに鳴らせるようにしたいので、製品の仕上げの時にチェックに使っています。
●では次をお願いします。
山内:今回は特別版でたくさんCDをリストアップしてしまいましたが、あと2枚ぐらいにしておきましょう。
オーディオファンはあまり聴かないかもしれませんが、BTS 防弾少年団、Kポップのヒップホップグループです。
●K-POPとは、今までにない趣向ですね。お願いします。
アーティスト名:BTS 防弾少年団
アルバム・タイトル:You Never Walk Alone
●(試聴が終わって)サウンド的にものすごい完成度ですね。ちょっとビックリしました。
山内:「stigma」という曲を聴いてもらいました。彼らは7人組の若い男の子たちなんですが、若さ故の純粋さとひたむきさが伝わってきてすごくいいなと。
かつ実力もあるので相当聴かせてくれます。サウンドも良くできています。ワールドワイドで評価されているようですし、ビルボードでもチャートアクションをしているようです。
●録音的にも高音も低音もたっぷりあって、これだけの情報量のサウンドをPMA-30はよく再生していますね。
山内: PMA-30はそれだけのポテンシャルを持っていると思います。では最後のCDをご紹介しましょう。サブモーションオーケストラです。
●サブモーションオーケストラとはどんなバンドなのですか。
山内:イギリスのリーズのバンドで、教会でダブステップをやってくれと言われて人力でやってみたのが結成のきっかけだそうです。聴いてみましょう。
アーティスト名:サブモーションオーケストラ
アルバム・タイトル:カイツ
●(試聴が終わって)ダブステップですが、いろんな要素が入っていてとてもユニークなサウンドですね。
山内:ライナーにはジェイム・スブレイクの世界観とマッシブ・アタックのベースサウンド、と書いてありましたが、私もカラフルな印象を持ちました。
電子音がメインですが、そこにトランペットが入っていたりして、新しさを感じます。
●古い要素と新しい要素が両方あるように思いました。
山内:サブモーションオーケストラも、ジャンルに関わらない普遍的な良さを持っていると思います。
●このような曲も、いろんな要素が入っていてオーディオ的には再生するのが大変なのではないでしょうか。
山内:そうですね。でも今回のセレクションのためにPMA-30を試聴室で聴いてみたら、ここ数年のデノンのスペーシャス感やビビッド感という部分はしっかりでていますし、再生能力も高かったのでいろんな曲が掛けられるなと改めて実感しました。
今日は使いませんでしたがクラシックもPMA-30はしっかり再生します。
●そう考えると、PMA-30はかなりお買い得なモデルですよね。
山内:はい。CDプレーヤーやスピーカーをいろいろ選んだりしてシステムを組むのも楽しいと思います。CDを主に聴く方の、Hi-Fiの入り口としては最適ではないでしょうか。
今回はたくさんの音源をご紹介いただき、ありがとうございました。
(編集部I)