「PMA-150HとDDFAについて」クアルコム大島氏+サウンドマネージャー山内インタビュー
デノンからHEOSテクノロジーと最新世代DDFA™アンプモジュールを搭載したデザインシリーズのプリメインアンプPMA-150Hが登場しました。Amazon Music HD、AWA、Spotifyなどのストリーミングサービスの再生やハイレゾ対応のネットワーク機能、Amazon Alexaによる音声コントロールにも対応した多機能を搭載したスタイリッシュなプリメインアンプですが、最新世代のDDFAアンプモジュールの採用によりデノンHi-Fiならではの高音質も実現しています。今回はデノンブログではDDFAの開発元であるクアルコムのシニアマーケティングマネージャー大島 勉氏とデノンサウンドマネージャー山内に、最新のDDFAとPMA-150Hについてインタビューしました。
HEOSテクノロジー&最新世代DDFA™アンプモジュールを搭載したデザインシリーズの高音質プリメインアンプPMA-150H
デノンがいちはやくDDFAを採用した理由
●大島さん、本日はPMA-150Hに搭載されたデジタルアンプソリューションDDFAの最新バージョンについてお話をうかがいます。よろしくお願いします。
大島:よろしくお願いします。
●まずは「DDFA」とは何か、から教えていただけますか。
大島:DDFAとは「Direct Digital Feedback Amplifier」の略で、フィードバック回路を持つデジタルアンプという意味です。アナログアンプに匹敵する高音質のデジタルアンプを作ろうというコンセプトで開発されたものです。
↑クアルコムシニアマーケティングマネージャー大島 勉さん
●「高級アナログアンプに匹敵するデジタルアンプを目指す」ということは、かなり音楽への思いが強い会社なのですか。
大島:その通りです。特に第1世代のDDFAを作り上げた時のメンバーは、イギリス人が多かったんですが、設計者には、音楽をやっていた人間や音楽のスタジオにいた人間がいました。音楽への思いが強かったですね。
↑DDFAのサンプル基板
●デジタルアンプソリューションとしてDDFAにはどんな特長があるのでしょうか。
大島:いくつかあるのですが、代表的な特長を2つ挙げると、1つはフルデジタルプロセッシングであることと、そしてもう1つは帰還回路を持つことです。デジタルアンプといっても、多くの方式は途中でDA/AD変換を行っており、その変換のプロセスで音質が劣化する可能性があります。その点DDFAは最終段までフルデジタルでプロセッシングしますので変換による音質劣化はありません。また帰還回路も大きな特長です。帰還回路、つまりフィードバックを使うことで電源の揺らぎや、素子、フィルターの特性のバラツキなどを高い精度で補正できます。帰還回路を持つデジタルアンプも少ないです。
●デノンがDDFAを採用した理由を教えてください。
山内:2015年に発売されたPMA-50がDDFAを搭載した最初のモデルで、サウンドマネージャーになる直前でしたが、私が開発を担当しました。
↑デノンサウンドマネージャー山内
大島:DDFAをご採用いただいたのは、国内のブランドとしてはデノンさんが最初でした。
山内:PMA-50の開発時に、アンプ方式はデジタルでいくことは決まっていたので、開発初期に複数のデジタルアンプ方式を検討しました。その時DDFAがずば抜けて良かったんです。まずサウンドステージが広かった。そして音場が明瞭で、定位がはっきりしていた。これならHi-Fiで使えるなとデバイスとしての可能性を感じました。また出力段や電源回路などに自由度があり、そこにオーディオメーカーとして我々が持っているノウハウが生かせる余地があると感じました。
PMA-150Hは第2世代のDDFAをBTL接続で使用
●PMA-50はコンパクトなサイズと高音質を両立し、デザイン性の高さもあいまって大ヒットとなりましたが、その後DDFAはどんなデノン製品で使われたのでしょうか。
山内:PMA-50に続いて、ネットワークレシーバーのDRA-100、そしてDNP-2500NEというフルサイズのネットワークプレーヤーがありますが、そのヘッドホンアンプ回路に使われました。
大島:その後ヘッドホンアンプのDA-310USBにも採用されましたが、ここからデバイスが変わり、DDFAの第2世代となっています。第2世代はPMA-60にも採用され、今回のPMA-150Hにも採用されました。
デノン試聴室のPMA-150H
●DDFAは第2世代になって、どう進化したのですか。
大島:第1世代のDDFAはデジタル信号処理を担うチップCSRA6601とフィードバックを担うCSRA6600の2チップで構成されていました。第2世代ではそれらが1チップに集約されました。また音質面でもさらにブラッシュアップされています。
↑PMA-150H製品発表会資料より
●1チップになったDDFAは製品開発上ではどんなメリットがあったのでしょうか。
山内:第1世代のDDFAは実は結構扱いが難しくて、音を出すまでに設計上で結構苦労することが多かったんです。第2世代ではそこがワンチップになり扱いが非常に簡単になったので、いままでの苦労がなくなりました。その結果、音質評価の音の関わる部分に、今までよりも時間が割けるようになりました。
●今回のPMA-150HではDDFAを2チップ使ったBTL接続で使用されていますが、BTL接続とはどういうものでしょうか。
山内:BTLとは2台のモノラルアンプを互いに逆相で駆動してそれぞれの出力にスピーカーを接続する方式です。普通のスピーカーの接続では信号はグランドに流れますが、グラウンドには様々な信号が流れているため、どうしてもその影響を受けます。一方BTL接続では正相と逆相の2つの信号で駆動させるためグラウンドに関係なく信号だけで駆動できます。
↑PMA-150H製品発表会資料より
●BTL接続にはどんなメリットがあるのでしょうか。
山内:電源・電圧を下げて使えるというメリットもありますが、音質面ではグラウンドのノイズから開放されるので、音の純度が上がり、音の立ち上がりや切れ際などが鮮烈になるというメリットがあります。
DDFAを使いこなしてきたデノンだからできたBTL接続
●大島さん、DDFAをBTL接続するという使い方は、クアルコムとして開発時に想定されていたことなのでしょうか。
大島:いいえ。我々としてはまったくの想定外でした。デノンさんから「DDFAでBTLをやりたい」と提案があったんですが、非常に驚きました。
●デノンとしてはクアルコムに相談する前に、すでに試作はしていたのでしょうか。
山内:もう試作はしていたと思います。DDFAを扱ってきたノウハウが我々にもあったので「こう使ったらもっといい音が出ると思いますよ。クアルコムさんどう思いますか」みたいな感じで相談しました。
大島:やはりデノンさんは第1世代で、DDFAを使いこなすためにものすごい苦労をされたというところがあって、様々なノウハウを蓄積されたのだと思いますし、そのノウハウからBTLというアイディアが出て来たんだと思います。こちらのエンジニアはびっくりしていましたけど(笑)。
●DDFAをブリッジ接続した場合、通常のDDFAよりもずっとクオリティが上がるのでしょうか。
大島:記者発表の資料には85%のノイズ削減と書いてありましたが、DDFAの第2世代を使っているメーカーさんでも、このレベルで仕上げているところはないと思います。またTHD+N(全高調波歪率+雑音)が0.0006%とも出ていますけども、今までずっとDDFAをやっていますが、そんなレベルのものは見たことがないですね。それって本当にものすごい世界ですよね。BTLだから成し得るものですし、それを発想し、実現したデノンさんの開発力には感服しています。
●先ほどデノン試聴室で大島さんにもPMA-150Hの音を聴いていただきましたが、いかがでしょうか。
大島:第2世代のDDFAの性能を生かし切った上で、山内さんのスペシャルフレーバーが入った素晴らしい音作りがなされており、これぞデノン、という音に仕上がっていると感じました。
●DDFAは、車で言うとエンジンみたいな存在だと思うのですが、違うクルマに同じエンジンを積んでも同じ走りにはなりませんよね。DDFAも使う会社でずいぶん違う音になるものなのですか。
大島:まったく仰るとおりで、アンプは決してチップが全てではありません。周辺の回路設計や使用しているディスクリートパーツによって大きく音が変わります。ですからPMA-150Hの音は、一流オーディオメーカーのデノンさんだからこそ出せる音ですし、DDFAをBTLで使うという設計もオーディオを熟知しているデノンさんだからこそ実現できた技術だと思っています。
●先日、ポタフェスの時にクアルコムさんのデモブースにうかがったところ、音質評価用のシステムに、デノンのヘッドホンアンプDA-310USBとヘッドホンのAH-D9200をお使いいただいていました。
大島:はい。おかげさまで大変好評でした。クアルコムのチップのデモンストレーションで使わせていただきましたが、同時に我々が作ったデバイスがこういった素晴らしい製品に入っていますよというデモンストレーションにもなっています。デノンさんのような素晴らしいブランドの製品で採用されていることは我々の誇りであって、DDFAを作ったエンジニアも大変喜んでおり、デノンさんのアンプを自分で購入して家で使っています。
●今後もデノンとクアルコムの信頼関係は深まっていきそうですね。
山内:最初のDDFAから、もう長いお付き合いになっていますので、技術者同士もお互いリラックスした雰囲気の中でディスカッションできるようになっています。新しい技術も、我々とクアルコムさんだからできるという信頼があってのことだと思うので、今後もよろしくお願いします。
大島:オーディオを知り尽くしたデノンさんの様々なフィードバックや提案は、私たちの製品開発の大きな糧になっています。こちらこそ、よろしくお願いします。
●本日はありがとうございました。
(編集部I)